華鬼灯 -ハナホオズキ-

桜の鬼 /〈六華將〉

桜の鬼に纏わる言い伝え【本文抜粋】

 ──伝説の鬼。
 それは、この世界に鬼が現れ、人間と共に暮らすように──いや、鬼が人間の上に立つようになった時代のこと。
 唯一、鬼から人間を守る鬼がいた。

 名も性別も謎に包まれている鬼。
 はっきりしているのは、他の鬼よりも圧倒的な力を持ち、その鬼に勝る鬼は存在しないと言われているほどの実力の持ち主だということ。
 その鬼の特徴として噂されているのは、その鬼だけが持つ力──〈空間変化〉。
 その能力はどんな傷も癒やしてしまう、まさに神の力だった。

 それは過去に数回しか使われておらず、実際に目にした者は少ないと言う。
 しかし、その能力を目にした者は全て人間であり、現在に於いて彼らの生存は確認できていない。
 そして、その鬼はある時を境に姿を消し、以後行方知れずになっていた。
 それ故「伝説」と謳われているのだ。

 存在したのかどうかも怪しいと言われる、伝説の鬼。
 その鬼は当時、こう呼ばれていた。
 美しき桜の鬼神──即ち〝桜の鬼〟と──

   ───「其ノ肆 ── 終焉ノ神子【桜】」の本文より抜粋

桜の鬼

「桜」という姓を持っていることから、桜の鬼と呼ばれている謎多き鬼。
その名の通り、桜舞う妖術を扱う鬼であり、それはどの〝気〟に属するのか分かっていない。
その特殊な妖術を以て、二度と〈開華〉しないと言われていた〈咲き損ない〉の〈華〉を〈開華〉させることも可能であり、作中では約四十年越しに姿を現した桜の鬼──桜薙瑠曰く、それは〈狂華〉以前の状態に戻すことだと云う。

さらに彼女曰く、桜の鬼は〈華〉が視えるのだとか。
〈華〉の形、色、状況を視ることができる特殊な眼を持っていることも、桜の鬼の特徴であると言える。

〈六華將〉と奇譚

〈六華將〉とは、桜の鬼が率いる花の名を姓に持つ六人の鬼のこと。
桜(桜薙瑠)、鷺草(鷺草神流)、菊(和菊狼莎)、柊(柊氷牙)、菖蒲(◆◆◆)、◆◆(◆◆◆)の六人を総称して〈六華將〉と呼んでいる。
※菖蒲と他一名の存在はまだ明らかになっていない。

それぞれの役割は以下の奇譚として伝えられている。

◇───────────────────
 サクラ  サキシ トキシンシガ 神使ウゴク
 菖蒲アヤメノ シメシハカラス 陰陽インヨウ
 〝ハラエ 鷺草サギソウシラザキノ 白鷺ゴトク
 千代チヨ 守護マモリハ〟、鬼狼キロウ  チギリ
 ヒイラギニ  ヒソムハ、〝カクレ 白蛇シロヘビ
 逍遙ショウヨウ  サクラスベテヲ  ツナギテ
 マサニ  ロッカノ 六華シンジツ シメ 真実サントス
 サクラ  サキシ トキモノガタリガ 物語ススム
 ソノ サキニ  アルハイツハリ 終焉シュウエン
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〈逍遙樹〉

桜の鬼が別なる存在(木花咲耶姫コノハナサクヤヒメ)から力を供給するための要となる木のこと。
一般的な鬼は、他人から力を供給したりすることなく鬼の力を扱えるが、桜の鬼は彼女から力を得なければ鬼の力を扱えない。

逍遙樹しょうようじゅ〉には視えない結界が張られており、端から見れば普通の木でしかないが、結界を破れば枯れることなく咲き続ける桜の木を目にすることができる。
〈逍遙樹〉を傷付けることは、それ即ち桜の鬼への力の供給が途切れることを意味し、作中では伯言はくげん(陸遜)ひいらぎ氷牙ひょうがの妖刀〈刹華セッカ〉を用いて結界を破り、桜薙瑠の変化を解いたことがある。

〈逍遙樹〉を遷す※1ことで供給の途絶えは免れているが、仮に〈逍遙樹〉が切り倒されるなどした場合、桜の鬼は鬼の力を扱うことができなくなり、変化することすら叶わなくなってしまう。
※1 他の場所に移し変えること。作中では村から洛陽に〈逍遙樹〉を遷している。

〈鬼灯〉

隠世から来た鬼が持つ生命の灯火のこと。
〝視える眼〟を持つ者曰く「生命の灯火は輝く酸漿ほおずきのような見た目をしている」とのことで、鬼の灯火と書いて〈鬼灯ほおずき〉と呼ぶようになった。
桜薙瑠を除いた〈六華將〉には、〈華〉ではなくこの〈鬼灯〉がある。

花言葉は「偽り」「ごまかし」。
現世うつしよにおいては存在自体が偽り(存在してはならない者)であり、〈鬼灯〉はその証とも言える。


▼余談:芍薬
〈鬼灯〉とは対照的に、〈華〉の見た目は八重咲きの芍薬に似ているとされる。
芍薬の花言葉は「恥じらい」「はにかみ」。
現世で生まれた鬼の〈華〉は例外なく芍薬の形を持っている。